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大阪地方裁判所 昭和63年(わ)1486号 判決

主文

被告人甲を懲役九年に、被告人乙を懲役二年に処する。

被告人甲に対し、未決勾留日数中二〇〇日をその刑に算入する。

被告人乙に対し、この裁判の確定した日から四年間その刑の執行を猶予する。

被告人甲から、押収してあるホルスター一個(昭和六三年押第四〇八号の1)、自動装填式けん銃一丁(同号の2)、自動装填式けん銃用実包二発(同号の3の1)、試射後のけん銃用弾丸及び薬きょう各二個(同号の3の2)、解体後雷管打撃検査したけん銃用弾丸、薬きょう及び紙包み火薬各一個(同号の3の3)を没収する。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人乙は暴力団一和会系○○組内乙組組長の地位にあったもの、被告人甲は同組の組員で右乙のボディーガードであったもの、分離前の相被告人A(以下単に「A」ということがある。)は右乙が使用する自動車を運転する立場にあったものであるが、右三名は、右一和会の定例総会の帰途、昭和六二年一一月三日午後一〇時半ころ、大阪市西成区千本中〈住所省略〉所在のスナック「○」に立ち寄り飲酒していたところ、翌四日午前零時ころ、暴力団山口組系××会内△△組組員Bが来店した。Bは、被告人乙が同店のホステスCの胸を触るのを見て、同女が自分の友人が交際している女性であることから快く思わず、被告人乙を睨みつけたりすれば、被告人乙もカラオケを歌おうとするBに聞えよがしに「この歌、誰が歌うんや」と言うなどして、被告人乙らとBとの間に険悪な雰囲気が生じ、Bは喧嘩になったときに備え、前記△△組組員に連絡を取り、同組幹部CことD、同組組員E、同F及び同Gを呼び寄せた。Bは、仲間が来たことからますます意を強くして被告人乙らにからみ、同日午前一時四五分ころには、右Dが被告人乙らの席に来て、同人らに「外に出んかい。」と言ったことから、喧嘩になることを察した被告人甲は、Aとともに、右Dらに続いて店外へ出た。

(罪となるべき事実)

第一  被告人甲は、昭和六二年一一月四日午前一時四五分ころ、大阪市西成区千本中〈住所省略〉所在のスナック「○」付近路上において、前記△△組幹部CことD(当時三七歳)ら五名と喧嘩になり、同人らから金属製特殊警棒や金属バット等で殴打されたことに激高して、とっさに右Dを殺害しようと決意し、所携の二五口径自動装填式けん銃(昭和六三年押第四〇八号の2)をDに向けて構えたところ、これを避けるため下を向いてかがみ込んだDの身体めがけてけん銃弾一発を発射してその右肩上後部に命中させ、よって、同日午前二時三八分ころ、大阪市住吉区万代東三丁目一番五六号所在の大阪府立病院において、同人を右肺、右心房貫通銃創に基づく出血性ショックにより死亡させて殺害し

第二  法定の除外事由がないのに、被告人甲は、判示第一の日時場所において、前記自動装填式けん銃一丁及び火薬類である実包六発(昭和六三年押第四〇八号の3の1はそのうちの二発、同号の3の2はそのうちの二発を試射したもの、同号の3の3はそのうちの一発を解体後雷管打撃検査したもの、残り一発は判示第一の犯行において発射済みのもので押収されていない。)を所持し、更に、被告人甲及び同乙は、分離前の相被告人Aと共謀の上、昭和六二年一一月五日ころから同年一二月二七日ころまでの間、京都市下京区堺町〈住所省略〉所在のマンション「メゾン○○」四〇五号室において、前記自動装填式けん銃一丁及び火薬類である実包五発(前記実包六発から判示第一の犯行に使用された実包一発を除いたもの)を所持した

ものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、被告人甲の判示第一の行為は正当防衛であると主張するので、この点につき検討する。

関係各証拠によれば、被告人甲が前記Dに向けてけん銃を発射するに至った経緯は次のとおりである。すなわち、被告人甲及びAは、Dら五名に続いてスナック「○」を出るや、直ちに同店前路上において、Dらと被告人らとの間で喧嘩状態になったが、Dは、いきなり被告人甲の腹部に抱きつき、同人がけん銃を所持いていることを知ると、「道具持っとる。取ってしまえ。」と怒号してけん銃を取り上げようとし、他の者も一斉に被告人甲及びAに飛び掛かった。被告人甲は、ズボン内側に隠し持っていたけん銃を取られまいとして手で押えながら、Dらの攻撃に対応していたため、手拳で応戦する程度で的確な反撃ができず、金属製特殊警棒などで頭部や顔面等を殴られた。そのうち、被告人甲は、Gから金属バットで背部や腰部を殴られ、さらに背後から抱きついてきたBがGに対し「頭狙え、頭狙え。」と怒鳴り、右指示に従ったGから、頭部付近をめがけて右バットで殴りかかられたため、左腕でこれを防いだ。被告人甲は、なおもGからバットで殴られる危険を感じ、いよいよけん銃を使用する決意をし、Gに対し「撃ったろか。」と言うと、同人はその場でひるんだものの、DやBにつかみかかられて路上に倒されたので、このままでは殴り殺されるかけん銃を奪われて逆に撃ち殺されかねないと思うとともに、リーダー格のDを殺害すれば他の者も攻撃をやめて逃走するものと考え、けん銃を取り出そうとしたが、ホルスターにはけん銃はなかった。被告人甲は、周りを見るとけん銃が路上に落ちており、誰もそれに気付いていない様子であったので、折からDが手拳で殴ってきたのに乗じ、殴り倒された振りをしてけん銃を拾い、立ち上がりざまにDに向けてけん銃を構えたところ、同人はしゃがみ込んで射撃から身をかわそうとしていたが、直ちに同人に向けて弾丸を一発発射した事実を認めることができる。

これらの事実によれば、被告人甲がDに対しけん銃を一発発射した時点のみをみれば、Dは、しゃがみ込んで身をかわそうとしており、それ以上の攻撃を加えるような体勢になかったのであるが、それまで△△組組員らによる攻撃の態様、この時点での他の組員の位置関係等を考えれば、このことをもって直ちに同被告人に対する侵害が消滅していたとはいえない。

しかし、正当防衛における急迫性の要件は、相手の不正な侵害に対する本人の攻撃行為を正当と評価するために必要とされる行為の状況上の要件であるから、攻撃時に侵害が現在していると認められるような場合であっても、行為の状況全体からみて、なお急迫性を否定すべき場合がある。

そこで、本件について、さらに関係各証拠を子細に検討すると、喧嘩はDらが被告人甲らに因縁をつけたことに端を発するとはいえ、被告人乙においては、Bがカラオケを歌うに際し、聞えよがしに「この歌、誰が歌うんや。」などと嫌味を言っており、これがDらの反発を買ったことも窺われる。また、被告人甲は、前記「○」の店内において、険悪な雰囲気が生じ、暴力団組員であるDが仲間に対し、「道具あるか。」と尋ねているのを聞いていたのであるから、同店内においてBが盛んに因縁を付けてきたり、Dが「外に出んかい。」と言ってきた段階においては、喧嘩が起きることや、喧嘩になった場合には、Dら相手方は暴力団組員特有の用語で「道具」と表現されるけん銃やバットなどの喧嘩闘争の用具を使うことを十分予期していたものと認められる。更に、被告人甲は、Dの右の言葉に対し「おう。」と言ってDら五人の後を追うようにスナック「○」の店外に出たのであるが、同店前路上において、Dから同店内での前記カラオケのことなどについて詰め寄られたのに対し、喧嘩を避けるような態度で対応したとは認められず、被告人甲の右言動をみれば、同被告人は、店外に出る段階においては、凶器が用いられる喧嘩闘争が十分予想されたにもかかわらず、これに応ずる意図を有していたものといわねばならない。

しかも、被告人甲は、被告人乙の護身用に常日ごろ身につけていたけん銃をそのまま携帯して喧嘩の場に臨み、喧嘩の際にはけん銃を見付けられて取合いとなり、これがために被告人甲に対するDらの攻撃が一層強まり、同被告人も相手方にけん銃を取られて撃たれる虞れのある事態に陥ったものであって、この意味では、被告人甲に対する侵害が強まったのは、同被告人のけん銃所持に誘発された面があるといえる。さらに同被告人は、Dらの攻撃に対し、手拳で反撃するうち、状勢が不利になると、被告人乙の応援を求めるため、スナック「○」のマスターに「呼べ、呼べ。」と指示している上、Gから頭をめがけてバットで殴りかかられるや、いよいよ所持していたけん銃を使用しようと意を決し、Gに対し「撃ったろか。」と言って威嚇した後、前記のように、リーダー格のDを殺害するもやむなしと決意し、しゃがみ込んで被告人の攻撃をかわそうとしていた無抵抗のDに対しけん銃を発射したのであるが、Dに向けてけん銃を構えた際には、Gにおいて再びバットで殴りかかるような具体的な挙動を示していたわけでもなく、Dはうずくまり、B及びEらにおいても凶器を携帯して被告人甲に攻撃を加えるような状況にあったとは認められない。かかる状況において強力な武器であるけん銃を手にした被告人甲としては、それをDらに向けて威嚇するか、せいぜい威嚇射撃をすれば、自己の窮地を容易に脱することが可能であったにもかかわらず、なんらこれらの手段を講ずることなく、僅か数メートルの近距離から無抵抗のDに対し、いきなりけん銃を発射して同人を殺害しているほか、弾倉がずれていたため幸い弾丸が発射されなかったとはいえ、さらに自己の傍らにいたEに対しても、同人の顔面に向けてけん銃の引き金を引いていることが認められる。

これらの事実を総合すれば、被告人甲は、Dらとの間に喧嘩が生じ、相当の凶器による攻撃が十分予想されるにもかかわらず、けん銃を携帯したまま喧嘩に臨み、状勢が不利になるや、機先を制し相手を打倒するために、所持していたけん銃を用いて積極的に相手方に攻撃を加えるべく、判示第一の行為に及んだものと認められるのであるから、右の状況全体からみて、正当防衛における急迫性の要件は満たされていなかったものと認めるのが相当である。もとより、被告人甲は、Gからバットで殴られるなどDらの攻撃により身の危険を感じ、これに対抗して喧嘩闘争を終わらせるべく判示第一の攻撃行為に及んだことは認められるけれど、右事情を斟酌しても、未だ前記認定判断を左右するものではない。

よって、弁護人の前記主張は採用できない。

二  弁護人は、被告人乙において、本件けん銃及び実包五発がマンション「メゾン○○」四〇五号室に存在することを認識していたものの、同所で本件けん銃及び実包五発を所持することについて被告人甲及びAと共謀したことはなく、また、本件けん銃及び実包については右甲が単独で占有していたものであるから、被告人乙に所持罪は成立せず無罪である旨主張し、被告人乙も当公判廷においてこれに沿う供述をするので、以下に検討する。

関係各証拠によれば次の事実が認められる。すなわち、判示のとおりの経緯で被告人甲がDを殺害した後、被告人乙らは現場より直ちに逃走して被告人乙宅に向かったが、逃走するに際し、Aは、被告人甲がDを撃ったけん銃を携行していることを認識しており、被告人乙も、同人宅において、被告人甲から同人が所携のけん銃で△△組組員を撃った旨の報告を受けた。そこで、被告人乙は、被告人甲が対立関係にある山口組系組員をけん銃で撃ったことから、△△組など山口組系暴力団から報復を受けるのは必至であると考え、かかる事態を避けるとともに警察からの追及を免れるため、京都方面に潜伏しようと考え、被告人甲及びAもこれに呼応して被告人乙に従い、右三名は、昭和六二年一一月四日、いったん京都市内のホテルに宿泊したのち、翌五日夕刻ころ、被告人乙が知人を通じて手配したマンション「メゾン○○」四〇五号室に潜伏するに至った。その際、被告人乙は、予想される報復から被告人ら三名の生命身体を守るために、本件けん銃及び実包五発を携行していた。

次に、被告人乙らの「メゾン○○」における生活状況、本件けん銃及び実包の保管状況等についてみるに、被告人乙ら三名は、先に宿泊した京都市内のホテルにおいて前記Dが死亡したことを知り、Aにおいては、事件直後ころ母親に電話をしたところ、△△組の組員らしき者から被告人らの生命を狙っている旨の電話がかかってきたことを聞き及び、いよいよ報復は必至であるとの思いを強くし、被告人乙は、被告人甲及びAに指示して、「メゾン○○」四〇五号室から不用意に外出せず自炊をすることとし、電話もかけないようにして報復を警戒していた。一方、被告人甲が携帯していた本件けん銃及び実包五発は、同人において「メゾン○○」四〇五号室の押入れの中にハンカチに包んで保管していたが、被告人乙及びAも、本件けん銃及び実包が押入れの中に置かれていることを十分認識していたほか、同室はいわゆるワンルームマンションであることから、被告人乙ら三名において、いつでも右けん銃を手にできる状況にあった。また、被告人乙ら三名がそろって外出するときは、被告人甲が本件けん銃及び実包を押入れから取り出して携帯し、外出の際に対立暴力団から報復を受ける場合に備えていた。また、同月一〇日ころ、同マンション四〇五号室において、被告人乙ら三名が同席していた際、被告人甲がけん銃を「ほりましょうか。」と被告人乙に尋ねると、同人は「けん銃は警察につかまるとき出さなあかん。しっかり保管しておけ。」と指示することがあった。

右の状況のもとで、被告人乙ら三名は、昭和六二年一一月五日ころから警察官に発見、検挙された同年一二月二七日までの間、前記「メゾン○○」四〇五号室において、報復を警戒しつつ共同生活を営んでいた。

以上の事実を認めることができる。

右事実を前提にして、被告人乙が本件けん銃及び実包について、いかなる意識を有していたかについて検討するに、被告人乙は捜査官に対し以下のような供述をしている。すなわち、「もし殺されそうになったらむざむざ殺されるわけにはいきませんから、甲のけん銃を使わなければならない状態になれば使うつもりはありました。」、「甲らは、若い衆としての責任上私の護衛を続けてくれていることはわかっていました。」(被告人乙の検察官に対する昭和六三年二月一日付け供述調書)と述べており、報復に備えて自分たちの命を守るため、本件けん銃及び実包を所持するという共通の意識と利益を有していた旨の供述をしている。

これらの供述は、前記認定の被告人乙ら三名が「メゾン○○」に潜伏するに至った経緯、潜伏目的、被告人乙ら三名が山口組関係者からの報復を恐れて警戒態勢のもとで共同生活を送っていた状況及び「メゾン○○」四〇五号室における本件けん銃及び実包の保管状況等の事実に照らして、十分信用できるものと認められる。してみると、被告人乙は、本件けん銃及び実包を握持したことがないとはいえ、被告人甲が「メゾン○○」に本件けん銃及び実包を携行することを単に認識していたにとどまらず、それを意欲するとともに、「メゾン○○」四〇五号室の押入れの中に本件けん銃及び実包が保管されていることについて、被告人甲らとともに共通の意識と利益を有していたと認めるのが相当である。

そして、被告人乙ら三名が「メゾン○○」に潜伏するに至った経緯、潜伏目的、報復を警戒しながら「メゾン○○」において共同生活を送っていた状況、「メゾン○○」における本件けん銃及び実包の保管状況に加え、襲撃された場合には、被告人甲に限らず被告人乙らにおいても本件けん銃及び実包を使用して反撃しようとする共通の意識並びにこれによって自分たちの生命身体が守られるという共通の利益を有していた事実を合わせ考えれば、遅くとも被告人乙ら三名が「メゾン○○」に潜伏し共同生活を始めたころ以降は、本件けん銃及び実包に対する被告人ら三名の共同所持が成立したものと認めるに十分である。

よって弁護人の前記主張は採用できない。

(累犯前科)

被告人甲は、(1)昭和五六年九月二一日大阪地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一〇月(五年間執行猶予、同五八年七月一三日右猶予取消し)に処せられ、(2)その猶予期間中に犯した覚せい剤取締法違反の罪により同五八年三月二三日同裁判所で懲役一年に処せられ、(2)の刑の執行(同五九年五月二五日執行終了)に引き続き(1)の刑の執行を受け、同六〇年二月一三日にこれを受け終わり、(3)その後犯した暴行、傷害罪により同六一年四月二八日同裁判所で懲役八月に処せられ、同年一一月二八日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は検察事務官作成の被告人甲に対する前科調書及び右各判決の判決調書謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人甲の判示第一の所為は刑法一九九条に、被告人両名の判示第二の所為のうち、けん銃を所持した点はいずれも同法六〇条、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項に(ただし、被告人甲が単独で所持した部分については刑法六〇条を除く。)、けん銃用実包を所持した点はいずれも刑法六〇条、火薬類取締法五九条二号、二一条に(ただし、被告人甲が単独で所持した部分については刑法六〇条を除く。)それぞれ該当するところ、被告人両名の判示第二の所為はいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑で処断することとし、被告人甲について、各所定刑中判示第一の罪については有期懲役刑を、判示第二の罪については懲役刑を、被告人乙の判示第二の罪については懲役刑をそれぞれ選択し、被告人甲について、前記の各前科があるので刑法五九条、五六条一項、五七条により判示第一及び第二の各罪の刑についてそれぞれ三犯の加重(ただし、判示第一の罪については同法一四条の制限に従う。)をし、同被告人の判示第一及び第二の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人甲を懲役九年に、被告人乙については、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役二年にそれぞれ処し、被告人甲に対し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入することとし、被告人乙に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとし、押収してある自動装填式けん銃一丁(昭和六三年押第四〇八号の2)、自動装填式けん銃用実包二発(同号の3の1)、試射後のけん銃用弾丸及び薬きょう各二個(同号の3の2)、解体後雷管打撃検査したけん銃用弾丸、薬きょう及び紙包火薬各一個(同号の3の3)は、判示第二の犯罪行為を組成したものであり、押収してあるホルスター一個(同号の1)は右自動装填式けん銃の従物であって、いずれも被告人甲以外の者に属しないから、同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれらを被告人甲から没収することとする。

(被告人甲の量刑理由)

本件は、被告人甲ら三名がスナックで飲酒中、対立関係にある暴力団組員から因縁をつけられ、相手方組員Dら五名との喧嘩闘争のもとにおいて、Dらから金属バットや金属製特殊警棒で殴打された被告人が、反撃のため所携のけん銃を発射してDを殺害するとともに(判示第一の犯行)、その後、相手方暴力団らの報復から自分たちの身を守るためにけん銃及び実包を所持した(判示第二の犯行)という事案である。

判示第一の犯行は、Dらが被告人甲らに因縁をつけ、喧嘩を仕掛けてきたことに端を発するとはいえ、被告人甲は、しゃがみ込んで身体を縮め、けん銃で撃たれるのを避けようとしていた無抵抗のDに向けて、僅か数メートルの近距離からけん銃を発射したものであり、その犯行態様は人命を軽視した冷酷非情なものというほかなく、人命を奪った結果が重大であることは論をまたないところである。加えて、被告人甲は、組長である乙のボディーガードとして常日ごろからけん銃を携帯していたものであって、暴力団特有ともいえるかかる行為が背景となって判示第一及び第二の各犯行に至ったことにかんがみると、その犯情は悪質であり、その他、Dの遺族に対して、いまだ何ら慰謝の措置が講じられていないこと、被告人甲は前科三犯を有し、前刑を終了した後僅か一年に満たない間に本件各犯行に至っていることなどの事情を合わせ考えれば、被告人甲の責任は重いといわなければならない。

してみると、判示第一の犯行は、Dらに因縁をつけられたことに端を発し、被告人甲もDらに取り囲まれた上、金属バットや金属製特殊警棒などで攻撃を受けた末に犯されたものであって、Dらにも相当の落度があることなど被告人に有利な事情を考慮しても主文掲記の刑は免れないところである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西川賢二 裁判官笹野明義 裁判官中山孝雄)

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